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第14回わが家のお仏壇物語

佳作「「悲しい酒」とお仏壇」 鈴木晴彦(福島県・62歳)

今のお仏壇を購入したのは33年前、母が57歳でこの世を去り二カ月ほど過ぎた頃だ。それまでは、大工だった亡き父が造った小さなお仏壇だった。父は母より一つ年上だったが、母が36歳の時に亡くなり、母は小学3年の私と小学1年の上の妹、保育所に通っていた下の妹の3人の子供を抱え、生きていくため町内の工場に勤めた。今思えば、「大工の女房」で会社勤めなど経験がなかった母にとって、「工場勤め」は毎日が不安と緊張の連続だったと思う。
そんな母が亡き父手造りのお仏壇の前で遺影の父と話すようになったのは、私が小学校の高学年になったころだと思う。母はようやく工場勤めに慣れ、気の合う友人も出来て年に数回、忘年会や暑気払い、新年会に出掛けるようになった。少しほろ酔いで帰宅すると、いつもお仏壇の前に椅子を運び線香を上げて鐘を鳴らす。そして、椅子に座り子供たちの成長や会社のこと、親戚の出来事など一時間近く遺影の父に報告し、最後は美空ひばりの「悲しい酒」を涙声で歌う。幼かった私は、父への報告が始めると「またか」とうんざりし、布団を頭から被り耳を塞いでいた。
今のお仏壇は妹たちと相談して、母が残してくれた生命保険の一部で購入した。お世話になっているお寺のご住職にご足労願って新しいお仏壇に魂を入れてもらい、亡き父手造りの小さなお仏壇を丁寧に供養してもらって処分した。黒光りする新しいお仏壇に新しいお位牌と茶器類を供え、お仏壇の上には両親と祖母、お世話になった叔父の写真を並べた。
あれから33年、私は還暦を過ぎ父が亡くなった年齢より25年、母が亡くなった年齢より5年も長く生きている。毎週末、炊き立てのご飯、お茶と水をお供えし、お線香をあげて手を合わせ、「見守ってくれてありがとう」と唱えるのが習慣になった。そしてようやく、お仏壇の前で父の遺影に語り掛け、「悲しい酒」を涙声で口ずさんでいた母の胸の内が分かるようになった気がする。

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