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第14回わが家のお仏壇物語

佳作「仏壇へのファンサービス」 家安音葉(愛媛県・16歳)

私の家の和室には、去年購入したばかりの真新しい仏壇がある。私はその仏壇に向かって、毎日ファンサービスを行っている。
今、仏壇を独占しているのは私のおばあちゃんだ。2年前に認知症を患い高齢者住宅に入所したおばあちゃん。コロナ渦に巻き込まれ、久々に会ったおばあちゃんは棺桶の中だった。私はろくに孫孝行が出来なかった。
「かまんのよ」が口癖だったおばあちゃん。私が何をしても許してくれていた。そんなおばあちゃんが唯一、許してくれないものがあった。幼稚園の頃から習っていた新体操だ。
私は、幼稚園児とは思えないほど体が硬かった。そのせいで、私より後から入ってきた子にも次々に抜かれていった。そんな私を見るのが嫌だったのだろう。「新体操はおやめなさい」と何度も言われた。私は、年齢制限ギリギリまで新体操に通い続けた。体は硬くても表現力だけは磨きたいと思い、その結果クラブで今も語り継がれる表現者になった。
新体操をやめてからも私の「表現したい」という意欲は収まらなかった。アイドルグループにハマったこともあり、中学生になると夜に単独ライブを和室で行うようになった。どこからどこまでが客席、ここでメンバーと絡む、今は花道を走っているから手を振っておこう。一人で誰もいない虚無の空間に手を振り笑顔を振りまいていた。
今も単独ライブは開催されている。中学生のころと違うところがあるとするならお客様がいるところだ。他でもないおばあちゃんだ。仏壇が置いてあるところは架空のステージの上手側だ。私は、今まで以上に上手側にファンサを送っている。たまに仏壇に飾られた写真と目が合うことがある。「見てるよ!ファンサして!」と言われている気がして堪らなくうれしくなる。
楽しいことが大好きだったおばあちゃん。新体操で培った表現力で私なりのエンターテインメントを届ける。それが、今の私にできる孫孝行なのではないかと思っている。

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