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第14回わが家のお仏壇物語

田中佛檀賞「夫の口癖」 見澤富子(埼玉県・63歳)

「俺は死なない」が口癖だった夫。タバコも酒もやめず、やめたのは通院くらい。いくら注意したかもわからない。いくらケンカしたかも。結局夫が亡くなったのは65歳。その早すぎる死に誰もがショックを受けた。
夫の死後は抜け殻のような生活を送った。夫の遺影を見ては泣き、湯呑を見ても泣いた。洗濯物も、食洗機も、あの日のまま。夫が亡くなった日のまま、私は何も手につかなくなった。半年後、見兼ねた娘が私を引き取ると言った。
引越の朝、仏壇を運ぼうとすると引き出しにロックがかかっていることがわかった。どうやら4桁の暗証番号が必要らしい。とりあえず夫の生年月日を試したが、やはり、うまくいかなかった。そこで仕方なく鍵屋を呼んだ。すると5分もしないうち、引き出しは開いた。しかし、そこには夫が書いた日記があった。
『9/13 綾子、生まれる。2980グラム。母子共に健康。富子、よくがんばった。』
『3/3 綾子、結婚式。とうとうこの日が来た。心からおめでとう。そして秀明さん。娘をどうぞよろしく』
『11/22 銀婚式。これまで本当にありがとう。身体に気をつけて一緒に、また、歳を重ねていきましょう』
何だかまるで天国からのメッセージ。酒もタバコもやめなかった夫は、家族を想うこともやめなかった。
「お父さんってば、こっそりこんなもの書いていたなんて」
娘が目頭をおさえた。私も言葉がない。けれど胸にこみ上げる熱いものを確かに感じた。
お父さん、ありがとう。
私、がんばるよ。
遺影を見るまなざしは、やっと、前を向き始めた。帰り際、鍵屋に暗証番号を尋ねると『4771』だと教えてくれた。
まさか、死なない?
私は娘と顔を見合わせて笑った。
あれから一年。「俺は死なない」の言葉通り、夫は今日も私たちの心に生き続けている。

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