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第14回わが家のお仏壇物語

佳作「新盆」 細田祐美子(埼玉県・36歳)

還暦を過ぎた頃から、父は写真を撮るたびに「この写真を遺影に使ってくれー。老い先短いんだから」といつも言っていた。人生80年時代と言われているのに、そんな冗談を、とそれを聞くたびに苦笑した。どうやら、おじいちゃんー父の父親が亡くなった年齢が近づいてきていたのが、その発言の要因だったようだ。
65歳でも現役で、元気に働いている父。そんな冗談をずっと言い続けながら、歳を重ねていく気がしていた。しかし、突然癌を患い、半年で駆け足のように旅立っていった。
父とは同居していた。いつもみんなで食事をしているリビングの一角に、父の居場所が作られた。私たち家族は、今までお仏壇のある生活をした事がなく、”しきたり”というものが一切分からない。それでも、今までのように、側で過ごしたいという気持ちが勝った。
初めてのお盆がやってきた。
小さな仏壇に合わせた、小さな提灯を用意した。あとは、玄関用の白い提灯と、何が必要なのだろう…とインターネットで検索してみる。”お盆のお供物セット”というものがあって助かった。お盆の期間は、仏さまは”鬼灯”に宿る?というのを見かけ、慌てて鬼灯も調達してきた。
見よう見まねでキュウリとナスに割り箸を刺す。
「え、何それー!」4歳の子どもが、興味津々で尋ねてくる。
いつも、「食べ物で遊ばない!」と言ってしまっているので、どう説明しようか悩んだ。夫がうまく説明してくれて、理解した様子だった。
「キュウリが早く♪ナスがゆっくり♪」「キュウリが早く♪ナスがゆっくり♪」歌のように何度も繰り返していた。
「ジイジ、早く帰ってこないかなー」
提灯が灯ると、温かい光がゆらゆらと揺れていた。

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