仏壇選びの達人

専門紙「月刊宗教工芸新聞」が提供する
仏壇と仏壇店情報

第14回わが家のお仏壇物語

佳作「仏壇の前で」 出町陽子(岐阜県・54歳)

幼い頃から私は、短気で厳格な父親があまり好きではありませんでした。母も私たち3人兄妹も、いつも父の機嫌を損ねないように生活していたように記憶しています。そのような性分だったせいか、父は実父母や実妹や実弟と仲が良かったとはいえなかったようです。
そんな父が末期がんと告知されました。あれほど怖かった父が、病気との闘いに半年ほど過ぎた頃には、病を受け入れたせいか、穏やかな柔和な顔に変わっていました。
そんな頃でした。この写真を撮ったのは。せっかくそろったのだから、父と母、私と兄と妹とその連れ合いと子どもたちと、仏壇の前で写真を撮ろうと誰かが言い出しました。全員が1枚に収まったのは後にも先にもこれ1枚。現像した写真を父に見せたとき、
「一人だった俺に、こんなに家族が増えたのか。」
そうボソッと呟いたのが聞こえました。何かため息のようでもありました。嬉しかったのでしょうか。それとも自分の人生を振り返って感慨にふけっていたのでしょうか。自分の人生もまんざらではなかったと思っていたのかもしれません。
その仏壇前での写真撮影から2か月後に、父は亡くなりました。写真ではまだ私のお腹にいた長男が産まれ、その顔を一目見てから1週間後のことでした。
あれから21年後の今でも、この写真を見るたびに思うのです。先祖からの命の鎖が一つでも途切れれば、この写真はなく、私たちも子どもたちもいないのだと。長い長い命のつながりとは、なんという尊くありがたいものなのだろうかと。
仏壇に手を合わせ、今日も命の無事を祈っています。

仏壇公正取引協議会
祈ってみよう、大切な誰かのために。PRAY for (ONE)