仏壇選びの達人

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第14回わが家のお仏壇物語

佳作「仏壇は変わらず私を待っている」 岩佐叡(群馬県・27歳)

物心ついた時からお仏壇はそこにあった。それがなにかも分からないほど幼い時からあり、幼少期の私にとっては家具の一部であった。私の祖父が仏門に入っていた事もあり、私たち家族は仏壇を大切にし、それを後世である私たちにもいつもそれとなく教えてくれたものだ。小さい私は仏様の教えや般若心経もよく分からないままよくお仏壇の前に座っていた。なぜか暖かく、落ち着く空間であったからだ。灯明立に火を燈し線香に火をつけ香炉にそっと立てる。そしてりんを鳴らし手を合わせる。この一連の動作とその雰囲気がたまらなく好きであった。そしてその気持ちを二十年以上も大切に持ち続け少年は大人になった。目まぐるしく変わっていく世の中や慌ただしい私の人生の中でも唯一仏壇で手を合わせる事だけは忘れた事がなかった。
就職し実家を離れた時初めて私は長きに渡り仏壇から遠ざかった。そしてそれだけでなく、実家に相続の問題が起こり実家そのものがなくなってしまうという事態が起こる。私が育ち、良い時も悪い時も常に共に在った空間がふと消えてしまう。あの子供の時から仏壇と過ごした部屋にも二度と入る事は出来ない。そう思うとなんとも寂しく感じた。
実家がなくなると同時に親も自分の近くのアパートに越してくる事になった。そしてその時実家の仏壇も両親の住むアパートの一室に移されたのだ。両親の引越しが落ち着くとすぐさま新居へ訪問に行った。そしてお仏壇を見たとき心からこう思ったのだ。ここが実家だ。お仏壇があるこの空間こそ帰るべき場所なのだ。たとえどこに住もうが最後に還ってくる場所。いつだって暖かく待ってくれている場所なのだ。そう思いながらそっと手を合わせて目を瞑ると、そこには幼少期に仏壇と過ごした空間はそこにあった。

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