仏壇選びの達人

専門紙「月刊宗教工芸新聞」が提供する
仏壇と仏壇店情報

第14回わが家のお仏壇物語

佳作「彼がいる仏壇」 倉田久子(愛知県・61歳)

二年前に家を出た。将軍様・お局様のごとく君臨する、舅・姑との同居二十年めにして、限界を感じたからだ。この時、一緒に連れ出したのが、十五才のままの次男である。正確に言えば、セラミックプレートに加工された次男の遺骨だ。十一年前、志望高校に入学し、喜々として将来を思い描いていた彼は、四ヶ月めに突然の事故で姿を失くした。
息子も居場所がほしいだろう。ネットで検索し、仏壇らしからぬ仏壇を見つけた。オーブントースターぐらいの大きさのそれは、蓋を閉じれば、上品な木製小物入れのようだ。即購入した。息子を入れて写真を添える。さくらんぼをイメージしたという銀色のおりんも置いた。小さいけれど、ガラスの蝋燭立ても線香立てもある。
賃貸ワンルームマンションのローチェストの上に、仏壇はある。それを背に、私は食事を摂ったり仕事をしたりする。時にテレビを見て、背後の息子と共に笑う。懐かしい歌を一緒に歌う。プラスチックごみのルポ番組に、未来を共に憂う。困った時は彼に助けを乞い、良い知らせは共有する。
以前姑に、「あなたは仏壇に手も合わせないわね」と言われたことがある。倉田家の物々しい仏壇に納まるのは、夫の祖母以外、会ったこともない人々だ。息子の位牌はあるが、そこに彼がいる気はしなかった。今、私の間近にある仏壇には、確かに彼がいる。私は、金木犀の香りの線香を立て、雅びやかな音色のおりんを鳴らす、おいしそうなスイーツが手に入れば、まず息子に食べさせる。馴染みの住職に、盆のお経もあげてもらった。二万円の仏壇だって何の遜色もないのだ。
世の中はめくるめく早さで変化し、仏壇のあり方も変わる。ダンボール箱の手作り仏壇だっていいじゃないか。手を合わせる気持ちになる場があれば、最近ようやく気づいた。仏壇は、故人のためにあるのではなく、逝った人を想う、遺された人のためにあるのだと。

仏壇公正取引協議会
祈ってみよう、大切な誰かのために。PRAY for (ONE)