専門紙「月刊宗教工芸新聞」が提供する
仏壇と仏壇店情報
第14回わが家のお仏壇物語
私が生まれ育った家にはボロボロの小さな仏壇があったが、今の家に引っ越してくる際、両親は位牌と鐘と線香の器があれば良いと仏壇は処分してきた。新しい家で鐘などは納戸の奥の隅っこにおかれて寂しそうに見えたが「鐘など必要なものさえあればいいよ」と和室に作った仏壇を置くスペースを有効利用しそのスペースには、父が趣味としていた大型パソコン、プリンターなどが置かれた。そんな父は毎日パソコン画面に没頭し作業をしていた。その背中がとても嬉しそうだった。
私自身子供の頃は誰のために両親が仏壇に拝んでいるのかもわからず、仏壇にはとくに関心は持たなかった。逆に線香の匂いとかが気持ち悪く薄気味悪いものだとも思っていた。
十五年前父が他界。葬式を終え一段落した直後、親戚一同が線香をあげに行きたいと連絡があった。我が家には仏壇がない。そのことを気にしている母「線香をあげに来るって言ったって仏壇もないのにどうしよう」悩む母の姿を見ていた私は「小さな仏壇買ってくるよ」と家を飛び出し仏具屋へ向かった。小さい仏壇を買うつもりで行ったが、私の目に飛び込んできたものは仏壇らしくない仏壇だった。予定の大きさをはるかに超えるものだったが「これください」と迷うことなく購入した。
「配送が土日を挟むので月曜日以降になってしまいます」今すぐにでも欲しかったので、
「持ち帰りたいのでうまく梱包してください」
と店員に告げ大きな段ボール箱にくるまれた仏壇を背負って持って帰ってきた。今だったら『鬼滅の刃』の主人公のような光景だっただろう。不思議なことに重さなど感じることなく仏壇を担いで十五分以上歩いて自宅へ戻った。父がパソコンを楽しんでいた場所に置いた仏壇を見ていると生前父がパソコンに向かう後ろ姿が思い浮かぶ。
仏壇らしくない仏壇が父の代わりのような姿で我が家を守ってくれているようです。